キャンサーズギフト(癌からの贈り物)

癌と癌治療の情報

キャンサーズギフトという言葉がある。癌になった事で得た気付き、新しい出会い、素晴らしい体験というような意味で使われる言葉のようだ。英語でCancer’s Giftで検索してもあまりその用途で使われている様には見えないが、日本語での検索ではかなり多くの方がこの言葉を使っているので日本国内で主に使われている言葉の様だ。テレビドラマ「おしん」に象徴されるような我慢強さ、苦境を乗り切る事の大事さへの敬意に結びつく日本人特有の考え方なのかもしれないが、私も癌になった事で多くのキャンサーギフトをもらったと実感している。

何よりも大きいのが、友人や家族のありがたさを強く気付かせてもらった事。癌になった事を公表した時に友人からもらった応援のメッセージや適格な助言は、その後の癌との闘いの中でとても力強いサポートとなった。寄り添ってくれる家族は、何よりも欠かせない心の拠り所だった。癌になった事で、こんなに友人や家族というものが自分にとって大事なものだったのだと気付かせてくれた。

最初に膵臓癌のステージ4の可能性があると告知された時、癌の事を調べようとネットで検索しても、怪しげな治療法を含むあまりに雑多な情報が出てきて何をどう信用して良いかわからなかったので、Facebookで膵臓癌にかかった事を公表したが、その文章が以下。

突然のご報告ですが、、、
8月から慢性膵炎と言われ治療を行っていたのですが、先日膵臓ガンである事が判明しました。肝臓への転移の可能性もあるとの事なので、これからガンとの闘いが始まります。
胆道に炎症が出ていたので、その治療の為に一昨日より川崎の病院に入院し、炎症が治まり次第抗ガン剤用の器具を埋め込み抗ガン剤での治療を開始、うまく肝臓への転移が消えたら膵臓ガンの切除を行う事になります。
妻からは何も公表しなくてもとも言われているのですが、昔から大勢の人の応援がある方が力が出るタイプ。観客の多いサッカーの試合の方が点を取れるし、多くの人が見てるティーグランドの方がナイスショットが出るという性格なので、今回のなかなかの強敵との闘いを前に、勝手ですが多くの方からの応援の声を戦う力にしたいと思い投稿しました。
又、きっとここにはかなり多くのガンサバイバーの方がいると思いますので、ガンとの闘いのコツ、克服する為の知恵等ありましたら、ぜひ教えてください。
本人は驚くほど冷静に病と向き合えており、ガンに打ち勝ち、勝ち抜く気満々です。現状全く変なところが無いと言って良いほど普通の状態で、すぐにでもサッカーが出来そうな体調ですので、しっかりと体を整えこれから始まるガンとの闘いに備えていきたいと思います。

その翌日には多くの癌サバイバーの方からのアドバイスがあったが、癌サバイバーの方に共通していたのがとてもポジティブな事。膀胱癌の摘出手術を5回もやった会社の先輩からは病院の個室で小型プロジェクターを持ち込んで映画を見る楽しさを教えられ、手術・抗癌剤・放射線治療・阻害薬のフルコースを経験した同期の女性からはそれぞれの治療を興味津々で乗り切ったエピソードを教えてもらい、膵臓癌から回復した方からは毎日楽しく普通に生活する事の大事さを教えてもらった。
癌患者は告知後には、絶望・否定の「衝撃段階」、抑うつ・孤独感を感じる「不安定段階」を経て数週間後に適応・癌への立ち向かいを始める「適応段階」に入るようだが、私の場合は友人からのアドバイスでかなり早い段階で適応段階に入る事が出来た。

最初のFacebookの投稿をした2日後に胆管が膿でつまり激痛に襲われた。それまでの人生で経験したどの痛みよりきつく、ベッドで七転八倒するような痛みだった。それまで膵臓癌の症状としては軽い胃の痛みや背中の痛みは経験していた程度だったので、膵臓癌にかかるとこんなきつい痛みと今後向かい合わないといけないのかとかなり憂鬱になったが、ベットに横になりながら多くの友人から届いた応援のメッセージを見ながら、これだけ大勢の友人が応援してくれているのだから頑張らなければと思い、痛むお腹を抱えながらベッドで書いたFacebookの文章が以下。

多くの方から応援のメッセージ、本当にありがとうございました。
私は自分は強運の持ち主だと思っていました。逆境苦境は乗り越えることが出来てきたし、勝たなければいけない闘いは全て勝ち抜けてきました。ただ、皆さん一人一人の顔を思い浮かべながらメッセージを読んでいると、私が持っているのは逆境を乗り越え闘いに勝つ運では無く、逆境の時にアドバイスをくれ助けてくれる人がいてくれる運、闘いの前に勝ち方を教えてくれる人がいて、闘いを一緒に戦ってくれる力強い人がいてくれる運なんだったんだなとつくづくと思い知らされました。
皆さんの応援のメッセージ、本当に力になります。
また、ガンサバイバーの方のアドバイスもとても参考になりました。私なりにガンサバイバーの方からのアドバイスをまとめると、こんな感じかなと思っています。

 前向きでポジティブでいること。
 これまで以上に日々の暮らしを楽しむこと。
 やりたいことを思いっきりやること。
 しっかりと体を動かすこと。
 抗がん剤でどんなに辛くとも食べ、食べ、食べる事。

これからのガンとの闘いの中、ガンサバイバーの方々のアドバイスを忘れず、日々暮らしていきたいと思います。
ただ、そんなに甘い闘いでは無いでしょう。
キツくなった時は、皆さんの応援のメッセージを何度も読み返し、力をいただきたいと思います。
本当にありがとうございました。

実際にはこの時既にベッドで激痛に苦しみながら多くの友人の応援メッセージを何度も読み返して力をもらっていた。50年近く前の中学時代の友人、30年近く前の中近東での仲間、20年近く前のアジアでの仲間、欧米での仲間、彼ら一人一人の名前を見て、ああそういえばあの時は彼に助けてもらったな、彼女に応援してもらったな、というエピソードを思い出し、これだけ応援もらっているのだから絶対元気になるぞと心に誓っていた。

その後も治療の状況をFacebookで伝える度に多くの応援のメッセージやアドバイスをしてくれる友人たちの存在のお陰で常に前向きに癌と取り組む事が出来たが、友人の大事さに気付かせてくれた事は私にとっての大きなキャンサーズギフトの一つであった。

寄り添ってくれる家族の大事さを強く教えてもらったのももう一つのキャンサーズギフト。私の体を気遣い一緒に癌と闘う方法を考えてくれる妻の心強さ、私と妻の事を気にして声を掛け顔を出してくれる子供たちの優しさ、圧倒的な癒しの力を持ち妻と私を元気にしてくれる孫たち。本当に家族って大事なんだと改めて気付かせてもらった。

そしてもう一つもらったキャンサーズギフトが笑顔で毎日を過ごす大事さを教えてくれた事。癌を抑え癌と共存していく生活の為に必要なのが笑顔で過ごす日々だというのは、時間の大事さをよく理解している癌患者だからこそ初めてわかる事なのでは無いだろうか。癌サバイバーの方・癌患者の方のブログを見ると毎日に感謝し楽しい笑顔の日々を過ごしている方が多く見られるが、私も今後どういう状況になったとしても笑顔を忘れないで過ごしていきたいと思う。

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