癌と死と生存率

抗癌剤治療中に見た箱根 癌と癌治療の情報

癌になった人は、誰しも死を意識するものだろう。例えそれが生存率90%以上あるほぼ完治が出来る癌であっても、生存率が1%強の厳しいものであっても、突然自分の前に現れた癌によって死に至る可能性がある事に対する戸惑いには違いは無いのではないかと思う。例え生存率が90%だとしても自分にとっては0か1。90%だけ生き残るという事はあり得ないわけで、90%の生存率と言われてもそれまでの人生では殆ど考える事の無かった目の前に突然現れた死の可能性に対して、死ぬという事はどういう事なのか、自分が死んだ後に残された家族はどうなるのか皆考える事だと思う。人によっては死の恐怖に怯える事もあるだろうし、残された家族の将来に対する不安で夜も眠れない方もいる事だろう。

私の場合は幸いな事に、子供が二人とも社会人となり素敵な伴侶と巡り合い結婚してくれたので、子供の将来に対する不安に苛まれる事は無かった。妻も私が居なくなったとしても残された資産と保険でそれほど苦労する事の無い生活が出来る事がわかっていたので、残された家族の将来への不安というものは感じずに済んだ。
自分が癌とわかった時に死への恐怖に怯えたかと言うと、何故かわからないが恐怖を感じる事は無かった。昔から侍小説が好きで、常に死を意識しながら清冽に生きる武士の話を好んで読んでいたが、だからと言って自分がそういった武士の様な心構えが出来ていたとは思えない。
ただ、自分が長く生きられない可能性がある事がとても悲しかった。まだ小さい孫ともっと一緒に時間を過ごしたい。妻とのんびりと日本中を旅したい。仲間とのサッカーで全国大会に出場したい。そういう時間が限られてしまう可能性がある事がとても悲しかった。

ただ割と早い段階で悲しんでいる時間の無駄さに気付いた。もし残された時間が短いなら、その短い時間を悲しんで過ごすのはあまりに無駄。出来るだけ楽しく残りの時間を過ごすべき。しかも残された時間が短いかどうかなど誰もわからない。悲しんでいる事に時間を使うのでは無く、出来るだけ長く生き抜く為に時間を使うべき、と癌告知の数日後くらいには意識を切り替える事が出来た。特に多くの癌サバイバーの方が、死と正面から向き合いながらも、死に怯える事無く前向きな気持ちで笑顔の日々を過ごす事が長期生存の為に重要というコメントをしていたのが意識の切り替えを後押ししてくれた。

生存率に関しても、ネットで検索すると膵臓癌ステージ4の5年生存率1.2%~1.6%という数値が良く出てくるが、この数値が2013年~2014年のころの数値だという事に妻が気付いてくれた。これは10年以上も昔のデータなのだが、多くのサイトはこの数値と大して違わない生存率を載せている。私を手術してくれた外科医の方に聞いても、数年前まで膵臓癌の術前抗癌剤治療が行われていなかった頃は、開腹手術をしても腹膜播種が見つかり膵臓の切除が出来なかった事が良くあったが、術前抗癌剤治療を始めてからはそういう事はほぼ無くなったという。そもそも生存率というものは、宝くじの様に一等賞は何本と数が決まっているものでは無く、治療方法・生活方法を変えれば数値は変わるもの。昔の数値に怯えるのは止めよう、と決めた。

同じ様な生存率の指標で、サバイバー5年相対生存率というものがある。診断から一定年数後生存している者(サバイバー)のその後の生存率の指標で、例えば1年サバイバーの5年生存率は診断から6年後の生存率となる。膵臓癌の場合0年サバイバーだと6%弱だが1年サバイバーで20%前後、2年サバイバーで40%前後と急激に改善し、5年サバイバーで80%を超えるようだ。どうせ数字を見るならこういう前向きになれる数字だけ見ていきたいと思う。

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